去年坂田さんが家に来てくれた時は、シュウマイを作ってくれたのだが、今回は餃子を作ってくれた。昨年のシュウマイのおかげで、蒸し器を買い、それ以来うちに欠かせない調理器具である。
家のIHと長く使っている鍋底の歪んだ鉄鍋の相性が悪く、なかなか満遍なく火が通らない。さらに他人の家の使い慣れないキッチンでの調理も相まって、ファーストラウンドは餃子の底が鍋にくっついて坂田さんは申し訳なさそうにしていた。底がくっつき、火加減も思いの外に強かったので、黒くなっている部分があった。焦げていると言われれば焦げていたが、真っ黒焦げではなく、フェンネルと引きたて豚にバジルの香りが調和していてとても美味しい。まだまだ、たくさん作ってくれていたので、セカンドラウンド。もう一回り小さいが同じ鉄鍋を使って再度焼いてもらった。一回り小さい鉄鍋は鍋底の歪みが少なくうまく焼けるのではないかというぼくたちの遅すぎる提案と、IHの火の強さを理解したという坂田さん。焦げることを警戒しすぎたのか、焼きが甘いとまた納得いってなさそうだった。ぼくは焼き餃子を作れないし、焼きが甘いとすら思わなかった。フェンネルと引きたて豚にバジルの香りが調和していてとても美味しい。まだまだ、峠を越えたくらいの量があったので、「水餃子にしてみますか」という話になった。サードラウンドは鍋にお湯を沸かし茹でてみた。またフェンネルと引きたて豚にバジルの香りが調和していてとても美味しい。それでも坂田さんは、まだファーストラウンドとセカンドラウンドの焼き餃子を引きずっているようなどこか浮かない表情をしているように見えた。ラストラウンドとなった。みんなでどちらが食べたいかという話になり、ぼくはこの味わいを楽しむには焼きがいいなと思っていた。引きたての豚肉の香りとフェンネルの食感が焼くと際立っていたように感じていたし、坂田さんの浮かない表情を晴れやかにするには、焼くしかないじゃないか、とも思っていた。しかし、二度の坂田さんの納得いっていなさそうな姿を見て「坂田さん決めてください」と彼女の決断に委ねた。ぼくも聖子ちゃんも手伝いもせず、焼くのも任せっきりだった。坂田さんは、少し悩んで「焼きます」と言った。
ぼくは、坂田さんの作るお菓子からは、彼女の性格をいつも感じさせられる。