朝、ステラのトレーニングをしていると、トラムのインスペクターに犬のトレーニングするならもっと飼い主自ら全身を使って表現豊かにしなさいと言われる。過去の苦すぎる思い出からトラムインスペクターに声をかけられるというのはぼくにとっては心がひっくり返るようなドキドキすることなのであるが、今日もいつも通り、むしろトラムにさえ乗っていないのに、陸に打ち上げられた魚のように心が飛び跳ねて動揺してしまった。彼らも悪気はないのだろうが、すでにトラムインスペクターとその制服は世界中で恐怖を与える人/制服ランキングで1位だろう。警察なんかよりもなぜかトラムインスペクターと同じ車両に乗り合わせた時なんかは、目を瞑るか、知らないふりして外を見るしかない。いかにも、怪しい行動をしているように思う。そんなぼくの心の動揺を知らずに、彼女はひたすらにトレーニングについて話した。トラウマというのはいつになったら心から消えるのだろうか。もしくは、上書きできるのだろうか。