2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2024.12.12

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2024.12.12

今日は何をしたのだろうか。何をしたかと思い出してみた、経理関係の整理と、Cairo Apartmentの発送先への確認メール、それから来月発売になる雑誌の校正チェック。校正は考えれば考えるほどにどんどん違和感を感じ続けてしまい、結局日が暮れそうになった。時間をかけすぎた。
昼過ぎにグラノーラを作り、夕方から昔CIBIのメグさんがファミリーディナーの際に作ってくれていたストウブでチキンをオリーブオイルで煮たような料理を作った。グラノーラには白胡麻が入ってないとどうも全ての味の喜びが噛み合わないような気がする、それは日本にいる時によく買っていた三育フーズのグラノーラのせいだろうか。甘くてお菓子のようにぼりぼりと食べていたのを思い出す。
昨晩、koboで1万円ほど計7冊買い物をした。岸雅彦『調査する人生』、宮本輝『転流の海』、森永卓郎『ザイム真理教』『書いてはいけない』、内田樹『日本辺境論』、レーモン・クノー『文体練習』、岸見一郎『幸せになる勇気』。読まないといけないと思っていたり、昔おすすめされていたり、iPhoneになんとなくメモしたりしていたものをとりあえず買い漁った。3月まではとにかくあれこれ読むつもりだ。今日、「昨日こんな本を買ったよ」と見せたら、聖子ちゃんには随分意外なものを買ったね、と言われたが、今は日本語を浴びるように一気に雑然とした読書をする時間が欲しい。内容に興味があっても、装丁で躊躇していたものもkoboだと読む気になる。だからと言って、装丁が良い本がなくなるという話ではない。
まあまあいい値段の本を作っている出版社の身分でこんなことを言うのもなんだが、読み物に限って言うと、koboだと3000円でも何も考えずに買うが、3000円の本を本屋で買うときは少し躊躇する。ビジュアルブックの話をすると、洋服屋さんで10万円の服の横にある8000円の本は躊躇せずに買えるかもしれない。空港で1000円のオレンジジュースは注文するが、家の角にあるカフェなら躊躇するだろう。微妙に中のいいとは言えない友人に誘われたら100円でコーヒー飲めるコーヒーチェーンに入るかもしれないが、仲が良いと感じのいい喫茶店に無理矢理でも行くだろう。初めてのデートだとコーヒーが2000円もする帝国ホテルのラウンジだとしても、関西ローカルのコーヒーチェーンだとしても、もしそこが二人の話題に出てきたカフェならそこに行くかもしれない。旅先で、憧れていた素敵なお店にきて興奮していると8000円の本は躊躇せずに買われるかもしれない。いつでも買えると思っているものはなかなか買わないし、初任給をもらった日なら初任給よりもだいぶ高価な50万円のライカも買いたくなる。
人々が持つ値段の感覚とはとても興味深い。これはDSMで働いている時からずっと考えている。価格設定は適正かという疑問はずっと頭の中をぐるぐると巡る。適正とは、何か。物質的なものにだけ価格が付けられるべきなのだろうか。付加価値とは、自分が作ったものをどんな風に買ってもらいたいか、どこのお店がどんな理由で、その場所に存在しているのか、
手に入らないから欲しくなるのか、たくさん目につくからふとした時や思い立って欲しくなるのか、販売員が好きだから信頼しているから買うのか。頑張って貯金して買ったものは記憶に残るだろうか。あなたにとって最初のレコードはなんだったか、それはいくらだったのか、どんなお金で買ったのか。何よりもぼくは、お客さんの購入の体験の重要性や販売員の販売する力を信じたい。自分の本を作って販売する際に、必ずきちんと接客するのはそういうことだ。販売員に力があれば、誠実に考えて作られた本であればきちんと売れるのだ、ぼくはその人間の力を信じていたい。眩しいほどに光を放つダイアモンドのような作り手の熱意という輝きをお客さんに届くまで少しも逃したくないのだ。素晴らしい書店員や販売員は、それを一番輝く場所を知っていてお客さんに紹介してくれる。いや、さらに一つ一つのユニークな輝き方を見極め理解し、それがちょっと奇妙な輝き方だとしても、その奇妙な輝き方を好むだろうと言うお客様を知っているのだ。
DSMには、時に本当に輝いているのだろうかと疑ってしまうようなものでもその輝きを見出し、その輝く瞬間をきちんと理解し、お客様にその輝きを届けるような力を持ち、その輝き方を好むお客さんを知っているスタッフたちがたくさんいた。洋服が飛ぶように売れているように見ているのは外野の人間だけなのだ。デリケートな心の揺らぎを柔らかに捕まえ、時に人を怯えさせるほどの強力な気配りがあの建物には存在した。ぼくは、そこで学んだことを今、実践するしかないのである。それがぼくが働いてきた価値であり、ぼくなりの感謝とお礼の形なのだ。