2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2024.4.9

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2024.4.9

さて、今日は夕方まで一歩を家から出なかったわけだ。朝から聖子ちゃんが作ったシナモンバンズ3つも食べ、ミルクを入れた濃いめのコーヒーを飲んだ。そこからずっと家の中であれこれとしていた。朝のステラの散歩を聖子ちゃんにお願いし、ぼくが夕方に行くようにしてから、朝起きてから一歩も家を出る必要ない日があるということに気付いた。日記を書いて、朝食を食べて、その後作業をして、昼食の時間になり、また少し作業をして、散歩の時間を迎える。朝の散歩の代わりに掃除機をかけるようにする、家を出ないならきちんと洋服を着るようにする、作業する部屋でラジオをかけて作業をする、朝の時間は調べ物をしない。ちょっとしたことだけれど、自分を律する方法はたくさんある。そして、家を出る時はシャツやジャケットを着る、と書いているとチャイムが鳴った。窓の外を覗くとUPSのトラックが停まっている、フィンランドのオンラインショップで買った荷物が届いた。階段を駆け下り、玄関の扉を開けると、いつもフーディを被っている細身の中央アジアにルーツを持つUPS配達のお兄ちゃんが立っていた。こうやって外に出ることになる日もある。やっと今日も世界の温度や質感を肌で感じる、まさに世界と自分の持つズレを晴れた春の日影が持つ特有のひんやりとした空気に触れることで修正するかのようだった。
安部公房『壁』を読み始める、安部公房を読むといつもある大学の同級生のことを思い出す。大学ではあまり言葉を交わすことがなかったが、よくCDDVDを焼いてくれたり、手紙を書き合ったりしていた。一度、誕生日に特大サイズの真っ黒のナンバーナインの紙袋をプレゼントでもらったことがあった。ナンバーナインとは似ても似つかないような風貌の女性だったので、不思議に思いながら開けてみたら桜の苗が入っていた。それから、あまり話した記憶がないままに初めて二人で食事をしたときに出町柳にあるビートルズバーりんごに誘われたり、ぼくが海外に行くことになった時に未来を照らすというメッセージを込めてペンダントライトからヘッドライトやランタンまで色々な種類のライトの詰め合わせをくれたり、安部公房が好きという資格があるような大学生だった。ある時には、彼女のお母さんから手紙をもらったこともあった。ぼくたちが仲が良かったことを知っている同級生は多くなかったんじゃないかと思うほどに大学では言葉を交わさなかった。具体的に何があったわけではない、ぼくが海外に行ったこと、彼女が結婚したり仕事を転職したりしていたこと、人生の一つ目の分岐点に差しあたる頃にはあまり連絡を取らなくなった。お互いに恋心があったのかどうかは今となってははっきりと思い出すことはできないし、そんなことを考えることすら恥ずかしく野暮だと思うくらいに、ぼくはたくさんの奇妙な楽しみを受け取っていたし、人生においてあんな関係の友人がいたことは、懐かしい気持ちにさせるだけではなく時に自分の過去の人生に立体感を与えてくれる。彼女は元気だろうか。