2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2024.4.12

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2024.4.12

午前中は、執筆。ランチに、サラダを食べる。また青空が広がる快晴なので、ビーチに向かう。今日はいつも以上に風が強いので、ビーチに腰を下ろして、本を読むなんてことはできない。歩いていても風の「ザーザー」という音が耳の中で鳴り続ける。それでもステラは楽しそうだし、ぼくたちを含む人々は自然と一体化していくような感覚を得ながらビーチを歩いていたのではないだろうか。自然界に存在する音と圧を感じながら歩くことは、一種のメディテーションのような感覚さえ覚える。
帰り、アイスクリームを食べる。Albert Heijnで全ての買い物を済ませそうな50代女性と隣り合った。「彼女にはアイスクリームは食べないの?」とステラを指差すようにして聞かれたので「多分食べないですね(Maybe,she doesn’t)」と言うと、「私の犬の先生からは、飼い主が何か食べるときは同じように食べさせてあげないといけないと言われているの」「リンに、ビスケットをもらってあげようか」と言ってきたが、「まあ、多分、大丈夫です」と言った。ぼくがあまりにもはっきりと答えないからか、聖子ちゃんが「初めてのオランダの夏だから色々実験しないといけないんです、スナックがあるので」何かを遮るように言ったが、その女性は、「引っ越してきたばかりなの?」と話を続けた。ぼくは「そうです、まだ日本から来て2ヶ月で、ぼくたちも彼女もデン・ハーグを知らないんです、新しい土地では色々気になってしまって、今もビーチに行ってきました」と嗅ぎ回すステラをリードで抑えるようにしながら返事をした。「長く滞在するの?」「多分(Maybe)、1年か2年くらいかな、、、」というと、「日本人にとっての多分(Maybe)はNoに近い意味でしょ、アイスもMaybeだったし」「日本人は、Noと言わないことを知ってるわ、オランダは残念ながらYesかNoしかないストレートな国民性よ」と。話している途中に、アイスクリームを食べ終えた3人の青年たちが何も言わずに店を出ていった。「あれがオランダ人、挨拶も何もない。日本人だったら店員にありがとうの一言くらいいうでしょう?」と残念そうな顔を浮かべながら話した。話すのに夢中になり、彼女のブラウスにアイスクリームが溶けて落ち始めている。それでもなお「今、テレビドラマShogunを見ているわ、あの日本語の言葉の響きや日本人が精神性はとてもエレガントね」と興奮したように話を続けた。「徳川将軍の時代から続く日本とオランダの歴史のことも学校で学んだし、『イキガイ』の精神性も、ヴァン・ゴッホがヒロシゲやホクサイの絵を気が狂ったように収集していたことも美しい歴史を持つ国のことをリスペクトしているわ」「私の好きな作家はミシマよ、彼の裸で腰に布を巻いたポスターをキッチンに貼っているの。彼は切腹して死んだわね」と矢継ぎ早に話してくれた。「戦争ではあまりいいことはしなかったけれど、それでも歴史や精神性の美しさは認められるべきだと私は思うわ」ふとぼくはにこやかな会話の中に、彼女が常に日本に抱いている払拭されることのないサッドネスが存在したことを思い知らされた。日本人が世界で良い印象を受けているだけではないということに一言で気付かされる。同世代のグローバル化する社会で生きているだけでは気付かないような、ある世代が持つ何かに対する印象を垣間見た。やはり、第二次世界大戦では日本という国は世界的にもネガティブなイメージが持たれている。終戦から80年が経とうとしている今でもなお、その歴史は消えることはなく、人々の感覚の中にその菌を宿しているのだ。ぼくたちは、いや少なくともぼくが第二次世界大戦を考えるとき、恥ずかしながら原爆が落とされた唯一の国として、戦争の被害国と思っている傾向にあるが、実際は世界的にはそんな印象はそれほどなく、ドイツと手を組んでいた世界を侵略する国という認識を持たれているのだろう。敗戦という言葉に違和感を抱えながら、これまで生きているのだが、やはり敗戦ではないのだと改めて感じさせられるようだった。戦争はある側面から見ると、被害者でも加害者でもあり、何も生み出さない。本当に世界から戦争がなくなって欲しいと強く思っている。ものの見方というものは本当に違う、同じものを見ていたとしてもそれが全く違う捉え方をされている可能性もあるし、歴史や伝承によってまた違う世界の見方が生まれる。それを否定する必要はないし、肯定し物事のユニークさとして世界の多様性や、人間の好奇心の源泉として大切に愛でる。歴史を美化するわけではない、しかし先人が残した全世界への悲しみを少しでも取り払い、新世代を生きる人たちに尻拭いをさせるような社会にはしたくないと思うのだ。「明日は今日よりも、天気がいいらしいわ」「でもデン・ハーグの天気予報当たらないですよね?風も強いし」「そうオランダのカミカゼよ」と笑いながら話していた。笑えない人もいるだろう、しかしぼくは受け入れあった親友との会話のようにこんな言葉でも笑い合っていたいと思うのだ。