2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2024.1.19

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2024.1.19

朝から1月のそれとは思えないほどにものすごく暖かいので家の周りを散策。今日の気温は17℃まで上がったらしい。散歩ついでに紀元前300年のものと言われている洞窟へ。日本の弥生時代の生活と大きく変わることはなく、土器を使っていたという。しかし、深く調べた訳ではないのではっきりしたことは言えないが、全く違いそうだなと思ったのは、ここの遺跡を見るに穴を堀り、その中で暮らしをしていたようである。日本では縄文時代から竪穴式住居など、上に建てるという構造の棲家を作っていた。そんな時代にイタリア中部では穴を掘っていたのか、だけれど、ローマ時代の遺跡を見てのとおり、上に建てることをしなかった訳ではない。アルベロベッロなどには紀元前に住居として地上に建てられた作られたものもあるし、単純にイタリア中部、いや、この辺りでは穴を掘って住んでいたというだけのことなのだろうか。上に建てることしかできない現代において、穴を掘って家を作れるという考えがぼくたちにも必要なんじゃないか、などと適当なことを歩きながら思いついた。とにかく、この場所は驚くほど日当たりがよく、穴の中にも光が届くのだ。穴の中に届く光の量は今も紀元前300年も変わらないんじゃないかと気付き、穴の中で数枚の写真を撮る。セルフポートレートも。きっとこの辺りの日当たりが良かったので、ここに住居を構えることにしたんだろうなとか考えていたが、2300年ほど前から同じ地形をしていたとは考えにくいので、きっとそれもまたぼくの適当な妄想でしかないのだろう。たった30年ほどしか生きていないのに人間はものや民間伝承だけを頼りに2300年前の生活を本当に想像することなんてできるのだろうか。
家に帰り、昼食を食べながら、日本vsイラクを観戦。1-2の敗戦で、試合を見ながらドキドキしてしまった。それは、試合結果も内容も日本代表の散々な負けっぷりというのも一つの理由だったとは思うのだが、それと同時に今の自分の置かれている状況に背徳感を感じていたからかもしれない。それはメルボルンで切符も買わずにトラムに無賃乗車している時のような、もしくは24時を過ぎて世田谷の246を自転車で駆け上がっていた時のような、なんとなく後ろめたい気持ちに似ていた。
ぼくは、この3週間で仕事以外の自分のプロジェクトだけで36枚取りのフィルムを9本使うことを自分へのルールとし、リサーチをし今後のプランを練るために、また、何もない村に籠って将来を見つけ直すためにイタリア中部の村に来たのに、ネットでサッカーを観戦している。それも、こんなに天気の良いイタリア中部の村にいるのだ、それなのに家の中でネットでサッカーを観戦しているのだ。さらに言うと、イタリア中部の村の原風景とも言えるような穏やかな風景と雲ひとつない青空を窓の外に眺め、開けっぱなしの窓から吹き込む太陽の暖かさを含んだふっくらとした風を浴びながら、体たらくにソファに座り、ランチを彼女に作ってもらい、ネットでサッカーを観戦しているのだ。真冬のオランダで極寒の時間を過ごすぼくの愛犬も、北半球にいる多くの友人たちも、それに正月の地震の被害を大きく受けた能登に住む方々も、厳しい寒さに耐え凌いだり、うんざりしながら生きているのに、ぼくは今日17℃まで上がると言われているこのイタリア中部の村で、青空を窓越しに眺めながら、ホクホクとした気分でいるのだ。その事実もぼくの背徳感という炎に油を注ぐようだった。それなのに、日本代表は優勝を約束されるべき大会のグループリーグで負けようとしているのである。そして、結局惨敗を喫し、ぼくの背徳感は消化されずに、ぼくの心の中にごそっと残ってしまった。
そんな気持ちを抱えたまま、2時間ほど部屋でリサーチを続け、写真の編集をして、それでもまだ気分が冴えないので、近くのcoopまで歩き、ミルクとパスタとフレッシュリコッタチーズを買う。iphoneを持ってこなかったので、ポケットには€6.67しか入っていなかった。ミルクとパスタとフレッシュリコッタチーズを買おうとすると€6.82だったので、€0.15足りなかった。無人レジの近くにいたシルバーフレームのメガネをかけた40代後半のイタリア人女性を「コインがたった15セント足りないんだ。クレジットカードも持って来ていない、たった15セントだけ足りないんだ」という目で見つめてみたが、何かが起きるわけもなく、上等なトスカーナ産のリガットーニを諦めるか、1lのイタリア産の低温殺菌のノンホモジナイズドのミルクを諦めるか悩み、1lのイタリア産の低温殺菌のノンホモジナイズドのミルクを諦めた。しかし、今夜のミルクティーが諦めきれず、€1.31lのイタリア産の低温殺菌のノンホモジナイズドのミルクをあきらめ、またどことなく背徳感を抱きながら€0.6500mlの高温殺菌された常温のミルクを買った。4枚ほどの茶色いコインが返ってきた。昼間晴れていた分、帰り道の夕日は街を赤く染めるほどにきれいだった。結局のところ、夕食後にミルクティを飲んだのかははっきりと覚えていない。