2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2023.8.30

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2023.8.30

朝、車をレンタカーし、荷物と聖子ちゃんを迎えに家に向かっていると、向かいからシトロエンが来た。もうぼくの実家にはシトロエンはない。ぼくが幼稚園か小学校の頃からほとんどずっと種類は変われどシトロエンはうちにあった。シトロエンの魅力に取り憑かれたように、車を買い替えてはピカピカの独特の色合いをしたシトロエンの新しい車がきた。2CVはとにかく古くて、唯一無二で、そのデザイン、色のトーンだとか、ぼくが何か言うまでもなかったが、何より最近のシトロエンは外装よりも内装の色合わせが秀逸だった。アルファロメオやフィアットも同時にあったが、ぼくはシトロエンが好きだった。ぼくが27歳で初めて買った車もシトロエンだった。それは90年製のダークグレーのBXだった。デザインと、独自のサスペンション、ハイドロニューマチックに惹かれた。だから、今でもシトロエンを見るとなんとなくノスタルジックな気持ちになる。しかし、今日ふとなぜ人はシトロエンを買うのか、シトロエンに乗るのかという問いが自分の頭によぎった。そもそも人はなぜものを、そしてどのように選ぶのか、ということについて囚われるように考えていた。シトロエンの座り心地が良いとか、ハンドリングのスムースさに優れているとか、色や形がいいとか、乗っていて気分が上がるとか、色々な理由で人は車を選ぶ。同時に、ステータスとしてフランス車や外車を選ぶ人もいる。ルノーのような市民権を獲得した車じゃなくてやっぱりフランスの大統領が乗るシトロエンだよね、とか。ダイハツじゃなくてトヨタだねとか、私立小学校にダイハツではお見送りできないとか、そんな理由である。しかし、ステータスとは曖昧なもので、日産が驚くような電気自動車を作れば、それがある種のステータスとなり、燃費が悪く地球に悪いとされている排気ガスをたくさん出すような古いビンテージカーとも比較されるようになる。さまざまなレイヤーが存在して、ステータスとは時代によって、環境によって移り変わる。近年は、「安かろう悪かろう」という言葉が聞かれなくなってきて、「安かろう良かろう」みたいに、安いことが良いことのようなご時世になった。経済的側面からすると、燃費がいいとか壊れないとか、そういう面もあるだろう。では、ものを選ぶときに、値段ではなく、そのものの良さとか自分との相性という理由を判断基準にするにはどうすればいいのだろうか。なぜそんな社会になっているのだろうか。それは、経済の不安定さではなく、経済が縮小しているのでもなく、もののキャラクターの欠如なのである。そして、経済が縮小するにつれ、人間の態度や度胸が縮小しているのである。会社が統合されることによって、コンポーネンツが共有され、似たようなものが溢れかえる。それは車業界だけではない、ファッション業界も同じである。ものの持つキャラクターやユニークさこそが世の中を楽しくし、人間の頭を柔らかくし、心を豊かに、知性を持った人間形成には大切な要素なのである。ぼくが明確に父親の車好きを認識してから、25年くらい経過したが、その父がこの夏、初めて日本車を買った。いや、まだぼくは見ていないし、あまり信じられないので、買ったらしいと言っておこう。そして、どこの車なのかは知らない。聞いたときには、驚いたが、今日こんなことを考えていると、父が日本車選んだのも、実は安さではなく、最近のヨーロッパ車のデザインの均一化やキャラクターの欠如によるものなのだろうなとふと思った。父が買ったのはどこの車かは知らないが、日本車は、いや日本は今とにかくお金がないので、知恵を振り絞って様々な仕様を凝らせている。もちろん、ぼくからすると、色だとか、シェイプの側面で魅力がない気はするし、正直なんでかあの色合いとかシェイプを見ると、気分が上がらない。もし、ものごとの筋道を見つけて、手助けし、快適にすることがデザインであるならば、「これぞデザイン」というようなものが日本車には多い気がする。結局、ブランド名とかそういうものではなく、その会社や人のクリエイションのユニークさが、それを手に取るきっかけになるような、そんな世の中のあり方が良いなと思っている。車だけではなく、他のことにも言えるし、自分たちのやっている出版社にも同じことが言える。葉山に行き、健寿司に行くも、夏休み。近くで寿司を食べて、鎌倉県立美術館葉山館で、森山大道、中平卓馬展を観て、一色ビーチへ。インクジェットで小さく印刷された森山大道のアレブレ期の写真では、ぼくはあんまりいい気分になれなかったが、彼がいることによってぼくたちのようなカメラを使って作品を作るアーティストや現代写真をやっている写真家たちは活動がしやすくなっているのかなとふと思った。海へダイブし、BLUE MOONでゆっくり過ごす。夜はコマチーナ。