2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2022.7.29

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2022.7.29

Kiko KostadinovチームがDSMでブックサインニングを行う。書籍をサンプルさえも見ずに列をなし購入するという現象への違和感を感じながら、デザイナー本人と会うという原始的でフィジカルなエクスペリエンスがいかにモノの価値を上回るのかを見た気がした。ある意味、人間の根源的な部分は「会うこと」「話すこと」「フィジカルコンタクトをすること」なのだろうなと思わされた。やはり身体的要素がそこにはあり、触れ合うということがいかに動物の心には栄養となるのかということを垣間見たように思う。
久しぶりにKikoチームのParideとAitorと話す。二人とも特に変わらず元気そうだったし、コロナの話さえせず、何事もなかったかのようだ。
ファッションデザイナーの人気とアーティストの人気の違い、ファッションというマスコンテンツにおけるカルト的なブランドデザイナーとアートという狭いフィールドでのマス的アーティストの違いについて妙に感じされられた。
おそらく日本においては、ファッションのマーケットは明らかに肥大しておりこれ以上にどう大きくなっていけるのかを真剣に考え突破していかなくてはならないのだろう。所有欲求や消費欲求、ルッキズムや、自分の喜びではなく人との比較によって生まれる喜びなど、それらの要素を包括してくれるファッションは、日本人ないしは東アジア人の性格との相性が良いのだろうと今日のイベントを通じて強く感じた。
そんなことも興味深いのだけれど、二日連続でRose Bakeryパリで働いていたときにとてもお世話になったアスカさんのピリッとしながらも剽軽な声を聞き、手先で話すような手振りを見て懐かしい気持ちと、生活を全うすることの喜びや美しさを再確認したようだった。2016年に最後に会って以来6年ぶりの再会で、子供が2人できたアスカさんを見て、以前からある母のような眼差しに、自分が自分に戻れるような感覚さえ感じてしまったのである。都市に侵されているのだろうな。
アスカさんがご結婚もお子さんも産まれる前に、「アスカさんはお店をしようと思わないんですか?」と尋ねたことがあった。アスカさんの作る料理の質感や空気、その時の驚きは、歯石のようにぼくの脳に今でもこびりついている。「私は、本当にお母さんになれるならそれが一番の幸せなんですよ」とRose Bakeryのキッチンという戦場でお疲れ気味の中、ふと話していたのがずっと本棚の本と本の間に差し込まれた展覧会のDMのように頭の片隅に残っていて、昨日と今日でそのアスカさんが二人の子供のお母さんになっていることも、それにまだRose Bakeryで働いていることにも複雑ながらぼくも同様に喜びを感じた。