2100年の生活学 by JUN IWASAKI : 2019.9.7

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2019.9.7

0時半頃渋谷駅に着く。さっきまで寝ていたので眠気もあり、ワインも飲んだせいで頭がひどく痛む。最近、気分がひどく落ち込むからなのか、赤ワインを小コップ一杯飲んでいることがある。たまには3杯くらい飲めるし、今日みたいに半分しか飲んでいないのに頭が痛む日もある。今日は、あまりうまく行かなかった。道玄坂を歩いて登る。金曜日の夜は、渋谷らしい光景が毎秒ごとに目に入る。路上に寝る人もネズミも多いし、なんだか自分のいる環境がすごく奇妙だなと思う。床に寝転ぶ若者たち、そのすぐ横にはゴミ袋が並んでいる。こんなに汚い街は見たことがないとぼくは思っているのだけれど、よく日本はキレイだよねと海外の友人から言われる。汚いと思うけれどそれでもパリの方がよっぽどマシだと思うのは僕だけだろうか。これだけのゴミを出す街で、生きている自分。
少なくとも人たちは、田舎でも床に寝転がったり、お酒を飲み交わし楽しく生きている。渋谷と同じように生活しているし、ネズミだってゴキブリだってそこらへんに都会同様に生き物はいる。生活のあり様はさほど変わらないように感じるけれど。それでも渋谷の息苦しさはなんだろうか。拒否反応が出るのは、臭いと情報量なのかなと思う。
contactの前で、村上さんと待ち合わせ。連絡があり、「恵比寿で忘れ物に気付いたんで少し遅れています」というとのこと。仕方なくContactの横のコンビニの前の花壇のところに腰を下ろし待つことにする。目の前に、若者7人グループがコンビニの入り口、小さな階段で溜まって話をしていた。そのうち二人の女の子はもうすでに地べたにぐったりとなっていて、一人の男の子は必死で介護をしている。残り4人はそんなことお構いなしという感じで、大笑いしている。一人の必死な男の子以外は、狂気の中にいる様な状態に見えた。すると、4人はどこかへ向かって歩いて行った。「じゃあ30分後にまた連絡ちょうだい」とか言ったか、なんだかあまり何を話していたかは聞き取れないけれど、もう一軒行くよといった雰囲気。
地べたにぐったりしている二人の女の子のうちの一人は眠りについたようで、見ているこっちが恥ずかしくなるような顔を覆いたくなるような無様な有様だったけれどひとまず見ていて安心できる様な感じになった。するともう一人の女の子がいきなり狂った様に床を這い出し、自分の身体の存在すらを忘れたのか右へ左へ飛び跳ねた。その姿は、人間ではなく、水生生物が陸に打ち上げられた時の様な不思議な光景だった。
と、同時に男の子は焦り、水を口に含ませるが、もちろん出てくる。同時にこれまで我慢していたのだろうけれど、蓋が外れたかのように一気に色々出てくるし、さらに出てくる。着ている服ももうそれらにまみれて、男の子のiPhoneでさえも同じようにまみれる。彼も冷静なのか狂っているのかiPhoneに水をかけ、洗い出す。電話をしていたのだろう、「来てくれ、一人じゃもうどうにもならない」と言っていた。
さらに女の子は狂い続け挙げ句の果てには立ち上がり、履いているパンツを脱ごうとし、黒のポロシャツも脱ごうとするのを男の子が必死で止める。パンツは見えてしまった。白のレースのもので、しっかりとハイレグカットである。OLの黒のポロシャツとスラックス姿からプリッとしたお尻とハイレグカットの白のレースを覗く。響きだけを聞くと全く悪くないが、人間を逸脱した狂気のダンスを見た後にはそれは美しいものとしてみることができなかった。色々締め付けが苦しいのだろう。ぼくも今は理解できる。パニックや過呼吸になった時は、全てが苦しいのだ。脱ぎ捨てたくなる。社会のシステムも同じだ、締め付けがきついと苦しくなってしまう。
コンビニの前に座っているだけでこんなにも激しい女の子の行動が見れるのだから深夜の道玄坂はやめられないのだとか言いそうである。そんな光景を見ていると村上さんが登場し、驚いた顔をしていた。「何かあったの?」と聞かれるが、何もないわけがないので、「何かあった」とだけ一言。
村上さんとふわっとした感じで駐車場を抜け、contactの入り口に向かっていると、IDがないことに気付き、再度家に戻っていった。ぼく一人先に入る。偶然、同僚のジャスミンさんに会う。Fashion Postでエディターをしているマナハちゃんとエドストロームオフォスで働くヒトミちゃんを紹介される。ダイスケくんがDJをしていた、定番discoをかけていた。踊っていると村上さんが「外国人のホームパーティにいるみたいなノリだね」と言っていた。確かに、定番discoをこのくらいのテンションでかけているのは楽しいホームパーティくらいだなと思った。しかし、村上さんよ、あなた外国の家のホームパーティ行ったことないでしょう?と思った。映画から影響を受けすぎる先輩である。
ひと段落したところで、ventへ行こうとなる。ventではメルボルンanimal dancingが開催されている。
ママチャリをニケツで道玄坂を駆け下り、渋谷のスクランブルを通り抜ける。自分でも30歳になって28歳の男の背中を見ながら涙するとは思わなかった。不思議な数分。
4時過ぎ頃、踊り狂っているといきなりパニックになる。目を閉じて、音に集中する。音に集中したいわけではなく、とにかく何かにしがみ付きたい感覚になる。そうしないとどんどんと流されて行くような感覚になるから。水の流れは外から見ている以上に驚くほどに急であり、さらに水中は、渦巻いている。一度飲み込まれるとどうしようもない。ぼくはパニックに対して同じような感覚を持っている。ふと気を抜くと持っていかれるのである。だから、目を閉じ自分の両足が地面にしっかりとついていることを確認していなければいけない。
椅子に腰掛け、目を閉じて何かしがみつけそうなものを探す、ない場合は自分の二本の足でしっかりと地面を感じて力を入れて立っていることが重要になる。意識するべきは水の流れではなく、自分の足がしっかりと地を踏みしめているかである。流れを意識すると、簡単に流れに持っていかれる。流れは、ぼくの隙間という隙間に入ってくる、そうやって飲み込もうとする。それがぼくがパニックに対して感じていることで、そのモードに入ると目を閉じて自分の存在を確認していないといけなくなる。他のことは全て後回しである。

村上さんと知り合った名前も知らない女の子と3人で渋谷センター街から少し入ったところにある天下一品へ行く。練馬出身で日本橋で働く26歳らしい。その他のことは覚えていない。ハリー細野の話をしながら赤リップがないとダメだと言っていた。ぼくにとってはどうでもいい話、基本的には会話の全てはどうでもいいのだろう、一番は会話を交わして音を紡ぐことだ、リズムを作ることだ。クラブの後にラーメンを食べるなんて大学生ぶりかもしれない。7時ごろ、家に着く。帰り道、用賀メンタルクリニックの前を通ったので、電話番号をメモする。
10時半に目が覚め、今ならいけるかもしれないと用賀メンタルクリニックに連絡。ちょうど30分後なら空いてるのでいかがでしょうか?と。こんなタイミングのいいことがあっていのかと思うが、これがダンスである、リズムに乗るということだと思い、急いでシャワーを浴びて、コーヒーとスコーンを食べて、向かう。
石井先生からパニック障害だという診断を受ける。診断書も書いてくれた。漢方も処方される、半夏厚朴湯というストレスを緩和するのに効果を持つ漢方。こんなに簡単にことが進むのであれば、もっと早くからすればよかったと思うが、すごく不安で怖かったのである。色々なことが信じられなかったし、ましてや先生だとはいえ、初めて会う人に自分の病状を判断され、言われるのも嫌だった。そして、自分がその病状だと自分で認識するのも怖かった。
少し、クラブで踊り疲れ、徹夜で少し緩いくらいがぼくにはちょうどいいのかもしれない。いつだってどんな時だってぼくは一人でも踊りに行っていたし、世界の反対側でも踊っていた。そんな人が踊りにいかなくなるということがそもそも不自然なのである。
先生もそう言っていた。「普段と同じ生活をしてください、してはいけないことはないからまずパニックなく自分の好きなことに打ち込めるという状態になりましょう」
作品を作ることと仕事のバランスがおかしくなったので、パニックになっているのではないかと言われ、自分でもそうかなと思っていた部分があり、「そうかもしれないです」というと、「作品を作ってください」と言われる。
テンションが上がり、家の模様替えをする。デスクトップのiMacが来ることを見越してデスクを作る。部屋が狭くなってしまったが、それでも仕事をする場所が出来た。
代官山に行き、蔦屋書店とヒルサイドパントリーへ。蔦屋書店でコペンハーゲンのリサーチをする。
フォートウエノへ行き、依頼していた写真のピックアップ。20時ごろ吉岡と杏奈ちゃんが家にくる。23時半頃まで話す。狭いけれど、なんとなくリラックスしていたようでよかった。ここに2年住んで、吉岡も歩いて5分くらいのところに住んでいるのに初めて家に来た。杏奈ちゃんと吉岡の関西弁の掛け合いが心地よく、意識の下にあるだろう無意識な部分でぼく自身の関西人としての何か大切なものが刺激されたような気がする。すごく心地よく話せた。
人の話を聞けて、それをうまく解釈し、その人に見合った返答が出来る人は素晴らしいな。それだけで人のことを救うことが出来る。様々な物事への理解があり、それらへ丁寧な反応が出来る、柔らかくて強い。そんな存在になれるだろうか。
かなり救われた一日。本当に何か突っかかっていたものがフッと外れるような、向かうべき方向が見えたようなそんな日。
4000字くらいかけた。途中から集中力が切れていたけれど。